豆鳥の巣立ち

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プラハ ストリート・パフォーマーたち

プラハのストリート・パフォーマーたち>

 前回は堅苦しい文章になってしまったので、今回は少し軽めの内容にしようと思う(とか言って、文体は堅苦しいままなのだが)。

 プラハの街を散策していると、美しい街並みだけでなく、いたるところにストリート・パフォーマーがいることに気づく。驚くほど高難度な技をしている人もいれば、なにをしているのかよく分らない人もいて、非常にバラエティ豊かだ。今回は、そんな日本ではもうほとんど見なくなったパフォーマーをなん人か取り上げながら、ついでにいくつかの観光地の紹介もしようと思う。ただ、パフォーマーの中にアイフォンのカメラを向けたら金をせびってきた人がいたので、トラブルを避けるために写真はあまり撮らなかった。そのあたりはご了承願いたい。

 

<旧市街広場の動く彫像>

たびたび紹介している旧市街広場には、建物や天文時計だけでなく、ストリート・パフォーマーもたくさんいる。ある日はバルーンアートをしている人がいて、次の日には子供の体くらいはある巨大なシャボン玉を作る人がいた。

日替わりで色んな人が現れるが、ほぼ毎日見かけるのは彫像のフリをするパフォーマーだ。全身を金や銀色にコーティングして、ポーズを取りながらひたすらじっとしているが、観光客が近づいた瞬間に機械音や幼児が履く靴のようなぴよぴよ音を出して動き、相手を驚かす。プラハの街中には本物の彫像が多いこともあって、近づかなければ見分けがつかないほど、どれもクオリティーが高い。

ただ、彫像のパフォーマーはブラチスラヴァやウィーンなど他の観光地にも出没しているので、数都市を巡った後だと見飽きてしまうかもしれない。ただ、寒い中防寒着も着ずにじっとしている彼らのパフォーマンスは、尊敬に値する。休憩時間に塗料をつけたまま普通に煙草を吸ってホットワインを飲んでいても、御愛嬌として見逃していただきたい。

 

<カレル橋のオルガン弾きのおじさん>

 プラハにはモルダウ川に架かる橋がいくつかあるけれど、その中でも1番見どころが多いのは、カレル橋だ。全長520メートルにも及ぶこの石橋は600年以上もの歴史を誇り、欄干の両側には計30体の聖人像が並んでいる。その中には日本人がよく知るフランシスコ・ザビエルのものもある。日本では教科書に出てくる人とか、頭がつるぴかの人というイメージが強いが(失礼だが、事実)、カトリック圏では偉大なる聖人として名高いのである。

また、夜のカレル橋も美しい。橋の上からライトアップされた橋塔やプラハ城を目にすれば、その息をのむほどの美しさに酔いしれることができるだろう。

 

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となりの橋から眺めたカレル橋

 

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 ザビエル像。ザビエルを洗礼先のアジア人たちが担いでいる。

 

f:id:chickenorbeans:20131103174420j:plain  夜のカレル橋。奥で光っているのは橋塔。

 

 もちろん、このカレル橋にも多くのパフォーマーがいる。旧市街広場にいる人らと少し違うのは、パフォーマンスをして客を呼び寄せた上で、絵葉書や雑貨などのお土産を買ってもらおうという作戦のようだった。中でも、写真に写っているおじさんは日本のガイドブックにも載っているほど有名だ。おじさんの手前の台みたいなものはオルガンで、演奏をしながらポストカードを売っているようだ。ただ、なぜ猿の人形を置いているのかはよく分からなかったが。

 

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 オルガン弾きのおじさん。猿がいる意味はよく分らない。

 

プラハ城の演奏家たち>

 カレル橋を渡ったら、次はプラハ城に登ってみよう。14世紀のカレル4世の時代に現在の様相を呈したこの城の敷地内には、ロジュンベルク宮殿や聖ヴィート大聖堂など様々な見どころがある。けれど、建造物についての解説はこれまでなん度も書いてきて食傷気味なので、ここでは変わり種をご紹介したいと思う。

 あまり知られていないが、城の中には郵便局がある。実は、その郵便局から郵便物を出すと、プラハ城限定の消印を押してもらえるのだ。ちょっとした旅の記念として、ここから知り合いに手紙やポストカードを送ってみるのもいいだろう。なお、郵便局の場所は第3の広場の門からそのまま右側に歩いて行ったところにあるが、かなりひっそりとしているので見落とさないよう気をつけてほしい。

 

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 このような消印を押してくれる。たしか、エアメールで30コロナした。

 

 また、プラハ城の城門では、天文時計の仕掛けと同じに毎正時に衛兵の交代式が行われる。一寸の狂いもない衛兵らの動作はまさに見物だが、直立不動の彼らの周りには常に多くの観光客が集まっているので、式の20分ほど前には城門付近にいないと間近で見ることは難しそうだ。

 

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 交代式。人が多くてあまり見れなかった…。

 

 その交代式のとなりで、楽器を演奏するパフォーマー集団がいた。ぼくの知識不足で名前は分からないが、どこかで聞き覚えのある軽快な曲を演奏していて、交代式を見に来ていた観光客から多くの拍手や小銭を捧げられていた。

 

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 プラハ城のパフォーマー楽団。

 

 城にいたるまでの長い階段の途中には、なぜかボブ・ディランを弾き語りするおじさんもいた。いかにもギター1本で世界を放浪しているような人だったが、彼の歌はものすごく、下手だった。でも、不思議とそれがかえって味があるからか、ぼくが見たパフォーマーの中では、彼が1番小銭を稼いでいた。

 

<物乞いのおばあさん>

 プラハ城では、少し考えさせられる光景も目にした。ボブ・ディランのおじさんの近くに、物乞いをしているおばあさんがいたのだ。おばあさんは神に祈るように地面に顔を伏せて、身動きもせず通行人からの恵みを待っていた。けれど、彼女の前に置かれた缶詰の空き缶の中には、2、3枚ほどの小銭しか入っていなかった。

おばあさんを前にしてぼくが思ったのは、仮にお金を捧げるとして、パフォーマーと物乞いとどちらに渡せばいいのかということだった。彫像のパフォーマーと物乞いのおばあさん。それに、お金を払いはしないけど、衛兵も。彼らに共通しているのは、自らの生活のために「じっとしている」ということだ。行為としては同じことなのに、彼らの間には大きな開きがある。そこには、決して自分自身の力では埋め合わせることができないものがあるような気がしたのだ。

だから、一芸を身につけていない人にお金を渡すのは単なる甘やかしだと、簡単に切り捨てることができなかった。けれど、だからと言って渡すのは単なる偽善で、根本的な解決にはならないのではないかとも思えた。とは言え、この寒さの中ではせめてあったかい飲み物を買うだけのお金でいいから渡すべきではないだろうか……?

そうやって、しばらく悶々と考えた後、ぼくはパフォーマーと物乞いのどちらにも払わないことにした。結論を出したというのではなく、その疑問の答えはどれだけ考えても答えが出そうになかったから、半ば投げ出したようなものだった。でも、そのとき覚えたもやもやとした気持ちは、その後の旅行の間もずっと続いていたのだった。どうもぼくは、旅行を楽しめるほどにはお金の使い方や生き方にまだ自信が持てていないようだ。

 

<おまけ 浮遊術の使い手>

 このように、人が集まる観光スポットにはたいていストリート・パフォーマーがいるので、彼ら目当てに市内散策をするのもいいかもしれない。お金を渡すかどうかについてだが、別に強制ではないので、自分が本当に感動したときや、細かいお金があるときにだけ渡せばいいと思う。もちろん、渡さないからといって非難されはしないから、ぼくみたいにあまり考え過ぎなくても大丈夫だ。

 

 最後におまけを1つ。観光スポットでもなんでもないただの道に、写真に写っているようなパフォーマーがいた。正面からだと分かりづらいが、上の男性は下の男性が持つ棒だけを支えに、宙に浮いているのだ。いったいどんな仕掛けがあるのかはまったく見当もつかないけれど、彼らストリート・パフォーマーのおかげで、この街にいる間、観光客は飽きるということを忘れられるのだ。

 

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 ブラッド・ピットみたいな男が宙に浮いていた。